トピックス精神療法ではなにが効く?

杉原玄一 医師

月・火曜日午後
外来担当

トピックス 精神科の薬の選び方
トピックス 精神療法ではなにが効く?

トピックス 精神療法ではなにが効く?精神科で行われている治療は、身体療法(主に薬物療法)精神療法の2つに大きく分けられます。今回のお話は精神療法、特に1対1で行われる個人精神療法に関するものです。

個人精神療法にはいくつかの技法があります。これまでに精神分析療法行動療法認知行動療法など、いくつもの手法が開発されてきました。各治療法はそれぞれの理論を持ち、臨床現場で実践されています。

では、どの治療法が一番効果があるのでしょうか?治療法によって効果は違うのでしょうか?確かに、対象とする症状によって、それを得意とする治療法はあります。例えば、強迫症(強迫性障害)に対しては、曝露反応妨害法という行動療法の1種が有効とされています。家のドアノブが汚くて触れない、触った後には何十分も手を洗わないと気が済まない、といった不潔恐怖、洗浄強迫と呼ばれる症状を持つ患者さんがいるとしましょう。曝露反応妨害法では、こうした患者さんに「ドアノブを触って汚いと感じ強い不安が出てきても、手を洗わずに時間が経てば慣れてきて不安は軽減する」ということを繰り返し経験していただき、それによって不潔恐怖や洗浄強迫が軽快すると言われています。

トピックス 精神療法ではなにが効く?一方で、精神療法において、治療効果には治療法の違いよりももっと大事なことがあるということを示唆する研究があります (1)。それは、全ての精神療法に共通してみられる性質 -- 共通因子 (common factors) -- と呼ばれます。この共通因子には、次のようなものがあります。同じ治療目標を患者さんと治療者が共有し協力すること、治療者が共感的であること、治療同盟関係が築けていること、治療者が患者さんをポジティブに評価すること、治療者の特性、治療者がブレずに誠実であること、患者さんの個人的・文化的な価値観に沿ったエビデンスに基づく治療を行うこと、患者さんの治療への期待、などです。先ほどの論文では、これらの共通因子が持つ治療効果への影響は、治療法の違いによる効果よりも大きいことが示されています。つまり、精神療法では、患者さんと治療者が治療目標を共有し協力しながら治療していくことや、治療者が患者さんに共感的であることなどの方が、より重要なのです。

当院では、限られた診察時間や診療スペースのなかではありますが、患者さんと同じ治療目標を共有し、協力して治療を行っていくよう努力しております。

参考文献
(1) Wampold BE. How important are the common factors in psychotherapy? An update. World Psychiatry. 2015;14(3):270-7. doi: 10.1002/wps.20238.

医師 杉原玄一

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